この記事は
・漢字に興味がある方
・漢字を深く勉強をしたい方
・意味の由来やなりたちを詳しく知りたい方
に向けて書かれています。なるべく専門用語などは使わず噛み砕いて解説しているので、軽い気持ちで覗いてみてくださいね
今回の漢字は「鼓」だよ
「鼓」ってどんな漢字?
【鼓】13画 コ・つづみ・うつ『常用字解』第2版より
鼓(つづみ)とは、太鼓など筒の側面に皮を張り、その面を打って音を出す楽器の総称としてある言葉です。とはいえ今日では太鼓と鼓の間には意味としての違いはあまりありません。小鼓のことも太鼓といいますし、太鼓も鼓と同義の言葉になっています。
ここではそんな「鼓」という漢字の構成についてみていきましょう。
「鼓」の左側は「つづみ」を表す
さて、今回見ていく「鼓」は会意文字です。会意文字とは「室」などのように複数の漢字を組み合わせることで、新しい意味を表している文字のことを言います。
「室」は「宀」と「至」が組み合わさっていますが、「鼓」の場合は「壴(コ)」と「支(シ)」の2つの漢字が組み合わされているということになります。
このうち左側の「壴」はいわゆる太鼓の形をそのまま漢字に表した象形文字で、これ一文字で「つづみ」という意味があります。
「え? 「つづみ」は「鼓」じゃないの?」「「壴」も「つづみ」表しちゃうの?」と思われるかもしれません。
ですが、もともと「つづみ」の意味を表していた漢字は「壴」であり、その後「鼓」がこれを表す漢字へと成り代わりました。
また、右側にある「支」には「壴」を打つ棒(バチ)を持っている様子を表すという役割があります。
つまり「鼓」という漢字自体は鼓を打って音を鳴らしている様子を表す漢字であるということになります。
そのため「鼓」には「鼓を打ち付ける」という意味があり、太鼓などつづみを打ち鳴らすことを「鼓(う)つ」のように表記されてきました。
「鼓」の古代文字(甲骨文字)
それを踏まえたうえで古代文字を見てみましょう。
いかがですか? 左側が「壴」の字、すなわち太鼓です。ちょうど祭りやパフォーマンスなんかで見る太鼓を横から見た形になっていますね。ちなみに▢の形の下側は太鼓を置く台を表しています。
右側は少しわかりにくいものの、それでも何となく全体を見ると太鼓をたたいているようなイメージに見えます。太鼓に向かって棒を振り下ろしている場面であるということが何となく伝わってきます。
このように「鼓を打ち付ける」という意味を持っていた「鼓」はその後、太鼓など「つづみ」そのものを表す漢字となり、現在ではこちらが一般的に使われています。
「鼓」のもとの漢字は「鼔」
話がややこしくなってしまうので、異体字の説明はここでさせていただきますね。
先にも書いたように「鼓」のうち「支」は太鼓を打つバチを持っている様子を表していますが、実はこの部分はもともと「攴(ボク)」という漢字になっていました。
なので「鼓」は異体字を「鼔」のように書き、ここでは後者が先に生まれました。
「支」も「攴」もそれぞれ「又(手)」に棒を持っている様子を示す漢字なのですが、このうち「攴」には「打ち付ける」という意味があります。
つまり「鼔」は「壴(つづみ)」を「攴(打ち付ける)」という構成になっているのです。
「支」には「ささえる」や「つかえる」「わかれる」などの意味がありますが、「打ち付ける」のような意味はありません。そのため漢字の構成だけを見れば、「鼓」よりも「鼔」のほうがその場面の状況をよく描写しているということになります。
しかし、どこかのタイミングで「鼔」の「攴」が「支」に置き換わり、現在では「鼓」のほうが一般的に使用されています。(なので「鼔」は異体字として字書に載っています)
どのタイミングで置き換わったんだろう?
うん…正直「鼔」は異体字という扱いしか受けていなくて、「鼓」と説明が一緒くたなんだ。もっと古い資料をあたってみるね
「鼓」の部首は「鼓」
「鼓」の部首は「鼓」です。「壴」が「つづみ」のことなので、これが部首のように見えてしまいますが、残念ながら壴部という部首は存在しません。
部首は漢字を分類するにあたって最も重要となっている構成要素を指しています。例えば「木」という漢字はこの一文字でまるごと1本の木を表しているため、最も重要な部分は「木」全体ということになります。そのため「木」の部首は「木」なのです。
先にも書いたように「鼓」もこれ一文字でつづみそのものを表している漢字であることから、「木」と同じように「鼓」は「鼓」自体が部首ということになるのです。
もしかしたら「壴」よりも「鼓」のほうがよほど一般的に「つづみ」の意の漢字として用いられていたのかもしれませんね。
ちなみに漢字検定2級ではこの「鼓」が対象漢字となっており、「鼓」の部首を問う問題が頻出します。覚えておいて損はないでしょう。
「鼓」が部首の漢字
ここでは少し脱線して常用漢字ではない「鼓」が部首の漢字を見ていきましょう。
おおつづみは「鼖」こづつみは「鼙」
おおつづみというのは漢字で書くと「大鼓」となります。これは私たちがイメージするいわゆる「太鼓」のことで、太鼓の達人の筐体のように皮(腹)がぷっくりと膨らんでいるものを言います。
このおおつづみは陣太鼓とも呼ばれ、これを表す漢字には「鼖(フン)」があります。
「鼖」は「卉(ホン)」と「鼓」からなっており、「卉」には「ふくれている」という意味があります。陣太鼓はその通り腹が膨れている太鼓なので、まさしくこの漢字は陣太鼓を表しているというわけなのですね。
一方、おおつづみに対しこつづみを表す漢字である「鼙(ヘイ)」は、特に騎馬兵が馬上で鳴らせるほどに手軽なこつづみのことを言います。
「鼙」は「卑(ヒ)」と「鼓」からなっており、「卑」には「小さい」という意味があります。
「小鼓」と書けばよいところを「鼙」と書くとは、この漢字を考えた人はよほど偏屈だったか、よほど紙のスペースがなかったのでしょう。
また「鼙」にさらに「鼓」を加えた「鼙鼓(ヘイコ)」という熟語は「攻め太鼓」のことを表しています。これは騎兵が歩兵への合図として使うもので、文字通り敵を攻撃する際に鳴らされるものでした。(騎馬に乗れる人は大概位が高い人)
このように合図や号令に用いられる鼓を「鼓角(コカク)」といい、戦場では特に鼓と旗が目立つことからこれらを表せて「鼓旗(コキ)」のように言ったりします。
また、「鼙鼓」には太鼓が頻繁に戦地で鳴らされることから、単に「戦争」という意味もあります。
このように、ここだけを切り取ってみても鼓は戦争と非常に深い関りがあったのだと読み取ることができますね。戦において鼓はそれだけ重要だったということなのでしょう 。
「鼕」は太鼓の音
太鼓の音といえばどのようなものを想像するでしょうか?
和太鼓の「ドンドン」といったお腹に響くような音であったり、こつづみの「カンカン」といった軽いけれど響く音であったり、はたまたドラムの「タンタン」という音であったりと人それぞれかと思います。
ここで紹介する漢字「鼕(トウ)」はそういった鼓や太鼓の音を「トントン」あるいは「トウトウ」のように表現しました。
漢字に書くと「鼕鼕・鼕々(トウトウ)」となります。
「鼕」は「鼓」に「冬(トウ)」の音を加えた形声文字です。つまりこの漢字は文字通り太鼓の音を形容して作られたものになっています。
この漢字を作った人は太鼓の音から「ド」でも「カ」でも「タ」でもなく「ト」の音を想像したのでしょうか。
もしかしたら日本人と外国人で動物の鳴き声の表現が全く異なるように、現在の我々とは太鼓の音の聞こえ方が違うのかもしれませんね。
とはいえ「トウトウ」はわからずとも「トントン」という音の表現なら間違いなく頷けます。「トントン」は太鼓の音にしては非常に軽く、なんとなく寒々しい感じの響きですが、現代でいえばでんでん太鼓がこの音に近いかもしれません。
そんなでんでん太鼓を表す漢字としては「鼗(トウ)」があります。(無理やり繋げました)「鼗」は図らずも「鼕」と同じ音の漢字です。
「鼗」は柄が付いている太鼓で、太鼓には小さい球が付いた紐がぶら下がっているものを言います。まさしくでんでん太鼓そのものを表しているといえます。
「鼗」は「兆」と「鼓」からなっており、「兆」には「左右に開く」という意味があるため紐が左右に開き太鼓をたたいている様子を示しているのです。
そもそもなんででんでん太鼓を表す漢字を作ったんだろ
そこが大きな疑問だね
「樹」の「尌」は「つづみ」
太鼓で勇気づけることば「鼓舞」
人を勇気づけたり、集団の人々の志気を高めたりすることを「鼓舞(コブ)する」といいます。
「鼓舞」はその文字通り鼓を打って舞を舞っている場面を言っているのですが、現在では鼓を打てば舞を舞えるくらい元気になるということから「勇気づける」などの意味として使われています。
また、「鼓舞」と同じような意味の言葉として「鼓吹(コスイ)」があり、鼓を打ち笛を吹くことで人々を「奮い立たたせる」ことをいいます。
このように「鼓」には太鼓の勇ましく弾んだ音を聞けば、元気が出てきて勇気が奮い立つというところから「勇気づける」や「元気づける」といった意味で用いられるのです。
「樹」は木の生長を促している
「鼓」は先にも書いたように「壴」と「支」が組み合わさってできている漢字です。「壴」は「つづみ」を表し、「支」はそれを打つ手とバチを表しています。
ところで「樹」という漢字は「木」と「尌(ジュ)」が組み合わさっている漢字です。
「尌」にはよく見てみると「壴」が含まれています。これは「鼓」にある「壴」と同じ漢字で「つづみ」を表しており、また「寸」は右手の形をそのまま漢字にした象形文字になっています。
つまり「尌」は右手で鼓を打っている様子を表す漢字といえます。
鼓の「支」を「寸」に置き換えているわけですから、手で打っている様子が想像できますよね。
ここまでは太鼓の使用例として戦争や軍隊の中でのものが多かったですが、ここでは鼓を儀式に使用しています。
昔の人々は、現代のようにスーパーやコンビニなどもちろんありませんから、自分たちが育てている作物が不作になると、買い出しもできず生きていくことが危ぶまれるほどでした。冬を越すことができないからです。
そのため人々はとりわけ春や秋になると作物の豊作を祈る儀式を、神様に向けてするのです。作物が無事になりますようにと、祈るわけですね。
祈るときには祝詞と呼ばれる呪文のようなものを唱えますが、これを発している最中横では鼓が打たれます。昔の人々は鼓を鳴らせば神様がお喜びなると考えていたため、祝詞の最中に鼓を鳴らせば、その声も鼓と一緒に神様に届くという思惑でした。
「樹」はその祈りを作物ではなく、木に対して行っています。
「木」の横で「壴(つづみ)」を「寸(手)」で鳴らしているということです。これにより神様に木の生長を願い、同時にその木を鼓の音で鼓舞することでその生長を促しているというわけなのです。
「樹」という漢字はまさにその儀式の場面を切り取って文字にしたものであるといえます。
このことから「樹」は特に生長している木、すなわち「生きて立っている木」に対して使われることが多い漢字になっています。
だから「樹の椅子」や「樹製」とは言わないんだね
道具になっている木は死んじゃっているからね
まとめ
- 「鼓」は13画の会意文字。部首は「鼓」。
- 「鼓」にある「壴」は太鼓の象形文字。
- 「鼓」は太鼓を打っている様子を表している。
- 「鼓」は太鼓の勇ましく弾んだ音を聞けば、元気が出てきて勇気が奮い立つというところから「勇気づける」という意味がある。
- 「樹」は木の横で鼓を鳴らすことで、神生に成長を祈ると同時に木を鼓舞してる場面を漢字にしたもの。
「鼓」と「樹」は意外な繋がりだったね
おわりに
今回は「鼓」という漢字を取り上げました。
わたしは大学生のころ能の舞台を見に行ったことがあり、そこで大鼓や小鼓あるいは篳篥(ひちりき)という笛など和楽器と呼ばれるものを実際に触ったことがあります。
能は歌舞伎などと違いあまり激しいイメージがないかもしれませんが、実際に見ると迫力が段違いでお話が頭に入っていればとても面白いものになっています。
それに一役買っているのがやはり鼓です。あまり詳しいことは言えないのですが、おそらく鼓は現在でいうところのベースの役割を果たしており、ピアノでいう左手の伴奏に近いのではないかと思います。
能楽師が待っている後ろには、ずらっと楽器を携えた人が並んでいます。その中で鼓はずっと「ポーン、カッ」「ポーン、カッ」と一定のリズムを刻んでおり、そこに笛が緩急をつけていくような感じです。
能を鑑賞し終えた後はいたく感動した覚えがあります。
それまでは能の映像を見せられても「退屈だな」「つまらないな」と思うばかりでしたが、観賞を期に考え方が180度変わった言っていいでしょう。
「鼓」といえば、と考えた末「能」という非常に渋い思い出を紹介させていただきました。皆さんも何か考え方や価値観を変える出来事を探してみてくださいね。
お届け物はこづつみ、太鼓は
つづみ
真一は
つつみ
続きの漢字
「鼓」には「支」が使われていますが、これは手に棒を持っている様子を表している漢字です。しかし「攴」とは異なり「打ち付ける」のような意味は存在しません。そのため今回はあまり触れませんでした。しかし「支」は「支」で支部という部首を形成する面白い漢字です。是非続きの漢字としてチェックしてみてください。
参考資料
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